「鍼はやめたほうがいい」――その言葉は、まだ気持ちの整理もつかない私にとって、とても重たく響きました。
ようやく診断を受け、これからどう治療していくかを考えなきゃいけない時期。なのに、一番信じたかった医師から告げられたのは、“可能性の否定”でした。
私はこの日、「何を信じればいいの?」という新たな不安と向き合うことになったのです。
歯の痛みから始まった、私の異変
最初はただ、歯がズキズキと痛むだけでした。
私は歯科医院を受診し、痛み止めと抗生剤を処方してもらいました。薬を飲めばそのうち治るだろう――そんなふうに、軽く考えていました。
皮膚科では「帯状疱疹」と診断されて安心したはずが…
ところが数日後、口元にヘルペスのような発疹が現れました。あわてて皮膚科に駆け込んだところ、診断は「帯状疱疹」。
帯状疱疹ウイルスを抑える薬をもらい、「これで大丈夫」と思って飲み続けていました。
しかし、安心していたのは束の間でした。
まぶたが下がり、紹介された耳鼻咽喉科での“重たい宣告”
ある日、鏡を見るとまぶたが明らかに下がっていることに気づきました。違和感は明確な「異変」へと変わり、私は再び皮膚科を受診しました。
けれど、皮膚科では「これ以上は対応できない」と言われ、耳鼻咽喉科を紹介されました。
そして、そこで初めて「顔面神経麻痺」の可能性を告げられたのです。
「鍼治療だけは絶対に受けないで」医師の強い警告
耳鼻咽喉科の先生は、私の状態をスコアで評価しながら、「かなりスコアが悪い。麻痺は残る可能性が高い」と静かに言いました。
そして次の瞬間、ハッキリとこう言われたのです。
「鍼治療だけは、絶対に受けないでください」
理由は、“共同運動”という後遺症のリスクがあるから。
目を閉じようとすると口も動く、口を動かすと目も閉じる。そんな連動が起こってしまうことがあると説明されました。
私は強いショックを受けながら、ただ黙って頷くしかありませんでした。
それでも、私は揺れていた。「このままで本当にいいの?」
医師の言葉は重く、説得力がありました。専門家としての知見、データ、リスク…。すべて正しいとわかっていても、心は不安でいっぱいでした。
「薬と安静だけで、本当に良くなるの?」
「このまま何もしないで、後悔しない?」
そんな問いが頭の中で何度もリフレインしていました。
迷いの中で生まれた、小さな決意
私はその日、「入院」か「自宅療養」かを選ぶように言われました。医師は「入院しても内容は変わらないかもしれない」と付け加えました。
私は自宅療養を選びましたが、「本当にこのままでいいのか…」という迷いは消えませんでした。
ただ、ひとつだけ思ったのは、「自分の体と、自分の感覚を信じたい」ということ。
そう思えたことが、私にとって小さな一歩だったのかもしれません。
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